その奥に十畳の茶の間と六畳の小部屋があり、突き当りが十二畳の寝間であった。南側がちょッとした庭。その片隅にイナリがあった。北側にも小さな庭があり、西はすぐ塀で、裏木戸があるが、これは道路側からは開けることができない。手がかりがないからである。
犯人は六畳の小部屋の北側の窓をあけて外へ降り、木戸をあけて逃げ去ったもののようである。窓が開いていたから、逃走の経路は分った。北側は土蔵によって母屋とさえぎられているから、そこを逃げ口に選ぶのは当然だったが、侵入の順路が分らない。
由利子は父の入浴中に各部屋の雨戸を閉じた。六畳の雨戸もそうである。上下の桟を特に注意しておろすことも忘れなかった。ところが雨戸には外側からムリにこじ開けた形跡が全くなかった。
廊下の戸は父の側からは錠をかけることができるが、今まで錠をおろした習慣はないし、その朝も錠はおろされていなかった。
廊下のこッちは中庭に面して由利子の部屋があり、階段を登ると久雄の部屋があった。由利子の部屋の隣室に四人の女中が眠り、その向うに台所や湯殿がある。他は階上階下ともに空屋である。台所用の土蔵も附属していた。
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