フタをとじるのはピカピカの侵入をふせぐためと、ゴロゴロの音を小さくするための最上の策だ。
 そのうちに雷雨が猛然ときたから、三枝子は各部屋の雨戸をしめてまわる。大学生の由也は夏休み中でもあるが、父母が居ないから連日外出して帰宅がおそく、時には泊ってくるようなこともある。外泊は今まで例のないことであるし、帰宅が十一時十二時をすぎることも父母の居るときは例の少いことであったが、父母の不在になってからは殆ど連日のことで、この日もまだ戻ってこない。三枝子は各部屋の雨戸をしめ、門もしめてクグリ戸だけカンヌキをかけないでおいた。また、由也の部屋には寝床をしき、机上の燭台に火ウチ石とツケ木をそえて、彼が帰宅してもまごつかぬように揃えておいた。また土ビンに水をいれて湯呑みを添えて枕元へおいた。
 三枝子が以上のことを果したことがなぜ判るかというと、三枝子が各部屋の雨戸をしめるために立上ったとき、当吉がフトンの中から声だけだして、門をしめることをたのみ、ラクは由也の寝床のことをたのんだ。これは両者の果すべき役割で、この家のサムライ気質のせいか、由也の寝床の始末だけは若い女中がやらずにラクがやる。
 さて
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