明治開化 安吾捕物
その十一 稲妻は見たり
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)武蔵新田《むさしにった》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)そこで[#「そこで」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)シャア/\
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 雷ギライという人種がある。まア人間は普通カミナリがキライのようだが、特別キライという人種があって、私の知人にもカミナリがキライで疎開このかた伊東の地に住みついてしまった人がある。伊東は年に四、五回、遠雷がかすかにカミナリのマネをしてみせる程度で、片道三時間の通勤は不便だが、ヘソをぬかれる心配のない平和に替えられないと彼は云っている。
 なるほど東京はカミナリの多いところだ、私は矢口の渡しに住んでいたころ、処によると物凄いカミナリになやまされたものだ。矢口のカミナリは武蔵新田《むさしにった》の新田神社へ落ちる、とあの辺の人々は信じている。人々は新田の神様の悲しくて荒々しい最期にむすびつけての意味を含ませて云うのかも知れぬが、事実あの杜へはよく落ちる。戦争で新田
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