たしかに大雷雨の真ッ最中になってからだそうだが、口論の起りが三枝子さんのことで、殴った方が栃尾だとすると、栃尾は三枝子さんにかねて懸想《けそう》していたのかも知れないようだ。他の三名の召使いがカミナリデンカンだということを一同が知っていたとすると、栃尾がある目的でひそかに忍びこんだと疑うこともできる。さすれば奴めの本が落ちているのは当然だ。奴めは時田に貸した本だと云うが、あのシャア/\と人を食ったことを云う栃尾の言葉が信用できないのは分りきったことだ。だが、まア、時田に先に会ってみましょう」
遠山巡査は若いけれども、なかなか目がとどいている。彼の言に一理ありと重太郎も感心した。だが、栃尾はメガネをかけていないではないか。
「昨夜の四人のうちでメガネをかけているのは誰ですか」
こう重太郎がきくと、ハゲ蛸は考えて、
「メガネをかけているのは、たしか、時田さんだけだね。そう、そう。酔っ払いというものは、よくメガネを落すね。時田さんが担がれるようにして店をでたときメガネを落したね。イナビカリがあって、母里さんがすぐ拾ってあげたよ」
「四人の方々が食ったのは馬肉のナベだね」
「へい。そう。ほ
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