益々ひどくなる一方だから、ウチのカサをかりて帰って行ったよ。そうだね。先の二人が帰ってから一時間ぐらい後だったネ。え? 雨が降りだした時刻だッて? そいつは分らないが、時田さん母里さんが帰ったあと十分ぐらいからポツポツきて、大雷雨になったのはそれから三十分ぐらいたってのことだ。後のお二人の帰るころから、絶頂になって、それからのビリビリバリバリ、ひどいの長いの凄いのオレが生れて以来の大カミナリさ」
きいてみれば口論の相手は栃尾で、殴った方まで栃尾とは人をくった栃尾の口ぶりではないか。時田は泥酔して足腰も定まらないほどだったというから、自宅へ帰れずその途中の母里のところへ泊ったのかも知れぬ。玄関の泥の足跡がもつれていたのはその証拠のようであるが、ハゲ蛸の話だとポツポツきたのが二人が去って十分あとだというのに、お手が鳴って三枝子がハイと立ったのは大雷雨の絶頂に達してからで、すくなくとも彼らがハゲ蛸をでてから一時間あとでなければならぬ。ハゲ蛸から母里家まで並足で三分か五分ぐらいのもの。くらい夜道で、どうもつれて歩いても、二十分か、三十分後に到着しない筈はない。
「変だなア。お手が鳴ったのは、
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