まらん話じゃないか。母里さんのウチは田舎のお盆や何かで皆さん帰郷して、残っているのはあの方ひとり、あと四人の召使いだけだってね。その中の三人までがカミナリのたびにテンカンを起すそうで、すると正気で残るのが何とかいう女中一人だそうだよ。それが大そうなベッピンだってね。カミナリが鳴りだしたから、泥酔した時田さんがオレを泊めろと母里さんに云う。皆さん留守だし、正気なのはアノ子だけだから、オレに手を握らせろなんてネ。酔ってのイタズラだが、云い方がしつこくて、あくどいね。それで栃尾さんが怒ったのさ。いえ、母里さんじゃないよ。栃尾さんがよ。大したことじゃアないやね。しつこいのは止せッてんで二ツ三ツ時田さんをぶッたかね。ぶたれたのは時田さんよ。酔ってるもの。ひどい泥酔よ。足腰てんでシッカリしないや。その二人を引きわけて、母里さんが時田さんを担ぐようにして送って帰った筈だがね。家へ帰って飲むからと母里さんは貧乏徳利ぶらさげてね。その時はまだ雨は降りださないよ。栃尾さん、川又さんは後まで残ってまた少しのんだが、そのうち雨がふりだしたから、やむまで待つツモリだったらしいが、やむどころか大変な大雷雨になって
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