まア、たまにネ。ふだんは秀才でシッカリした人だが、ああなると人が変って手に負えないね。口論だって大したことじゃアないよ。友達同士だもの」
「相手は?」
「なに、友だちだよ。内輪のことだよ。栃尾さんとあの人だもの、仲よしで秀才同士だよ、喧嘩じゃないよ。酔っ払ったら、あたりまえのような仲よし同士の口論なんだよ」
「別にお二方の秀才が悪いことをする筈はなし、お二方の悪事をしらべてるんじゃないよ。実はお二方の一人の行方が知れないので身寄りの方から調査依頼があって、それで昨夜の足どりをきいてるのだから、その口論の様子なども一応きかせてもらいたいね」
「へい。そうですかい。栃尾さんはさッきウチへカサを返しに来たから、するてえと時田さんが行方不明かね。だって若い男だもの、一晩ぐらい沈没したってフシギはないさ」
「さ。それがだ。実は今晩、見合いとか、なんとか重大な要件だから、至急居場所をつきとめて貰いたいと、実のところはこういう内々の警察には珍しい大そう粋なことで頼まれたのだよ」
「なるほど。そうですかい。それにしては、そんなこと、ゆうべは一言も仰有らないね。ブッ。笑わせるよ。口論の元というのが実際つ
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