たという書物をみるとシェクスピヤである。ローマ字でK・TOCHIOという署名があった。トチオという友人をきいてみると、すでに由也は外出したあとだが、ラクもオソノも栃尾という友人の名を知っていた、幸い住所も分ったから、白山下の彼の家を訪問すると、彼は在宅しておって、自分がその本の所持者であることを肯定したが、
「それは昨日時田に貸した本さ。時田と母里と川又という三人が遊びに来たから、時田にその本を貸してやり、四人で白山上のハゲ蛸という馬肉屋へ行って飲食した。時田は非常に秀才だが酒癖が悪くて、酔うと前後不覚になって喧嘩口論、手荒なことをやる奴だ。昨日もそうさ。そこへピカリと光りはじめたからいそいで散会したが、時田が酔っているので方角の同じ母里がつれて行った筈だな。四人とも酔ってはいたな。川又はオレを送ってくれたから、オレが母里と一しょでないのは川又の奴が知ってるのさ」
 白山上はすぐだから、遠山巡査と重太郎はハゲ蛸へ行ってみた。看板に書生鍋とあって、馬肉の鍋を主としてやっている。四人は常連だから、そこのオヤジはむろん知っていて、
「そうですよ。時田さんが、ちょッと口論のようなことを、ええ、
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