いではありませんし、三枝ちゃんが男物のメガネをかけるわけは一そう有りえないでしょう。どなたか泥だらけの男の方が泊って夜の明けないうちに立ち去ったのだと思います」
これは意外の話である。同行した若い巡査は遠山というが、オソノに好意をよせ、それにひきつづいて重太郎に親しみを寄せたらしい。重太郎、三枝子、オソノの来歴や身分を知って非常に感ずるところがあったらしい様子であった。
「なるほど、何か深いワケがありそうだ。皆さんのお話の様子だと、三枝子さんが逃げ隠れするとは思われない。しかし死んだ形跡もないとすると、どういうワケになるのだろう。ぼくはそれを上申して取調べてもらいましょう。とにかく妹さんが行方不明という件ですから、一応署へ来て下さいませんか」
「承知しました。そして御尽力できることがありましたら、どうか調査の用に使って下さい。妹の有罪無罪いずれにしても、兄として真相をつきとめないワケには参りません」
そこで三人は警察へ行って、重太郎は形式上の質問をうけたが、井戸へもぐった佐々警部補は遠山巡査の疑惑を是として、さらに調査を命じた。そこで三名は母里邸へ行った。
重太郎がヘドの下にあっ
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