跡なんです。大きさがずいぶんちがっていてハッキリ大小の別が分りました。きっと何かがあったんですわ」
「しかし、クラヤミで三枝子が花ビンにつまずいて倒れるようなことはありがちだね」
「いいえ。三枝ちゃんは手燭を持って立ちました。フトンをかぶっていましたけど、少しスキマがありましたから、三枝ちゃんの立去るのと一しょにだんだん暗くなったのを知っていました」
「しかし、三枝子が家宝をわって戸外へ逃げようとするのを由也さんが追っかけて、二人ともハダシで外へでて、いったん玄関まで連れ戻された、大小のみだれた足跡はそれを語っているような気もするよ」
「ですが、その足跡の一ツは三枝ちゃんではないと思います。なぜなら、いつもお寝床の始末をするラクさんが、今朝のお寝床は泥でよごれて大変だから手伝ってと仰有《おっしゃ》るので参ってお手伝いしましたが、由也さまのオフトンを入れる押入の中を見ると、その中にもう一人前のオフトンがはいっていて、それも泥でよごれていたのです。ラクさんが不審に思ってそのフトンをおろしてひろげると、オフトンの中は由也様のよりも泥だらけで、その中からメガネが現れました。由也様はメガネをお用
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