ぱりあげる用意をしてやり代る代る石を持たせて底をさぐらせ、自分も同様な方法で三べんも底へくぐって調べて、遂に井戸の中に誰の死体もないことを見とどけたのである。
「この井戸に身投げしたものは確かに居ないぞ。この近所に、ほかに井戸はあるのか」
 むろん当時のことで井戸のないウチはない。母里家の台所は田舎風の土間になっておって、台所の中に内井戸がある。そのほかに馬小屋の横にも井戸がある。この二ツをしらべてみたが、同様に三枝子の死体はなかった。近所の家の井戸も見せてもらッたがどこにも三枝子の死体はない。
「すると、井戸へ石でも投げこんで死んだと見せて、自分のウチへ逃げて帰ったらしいぞ。三枝のウチはどこだね」
「三枝ちゃんのウチは没落して家も身寄りもないらしいのですが、たッた一人の兄さんがオソノちゃんの実家に居候だかお客様だかで居るようです。ねえ、オソノちゃん。たしか身寄りはそれだけだったねえ」
「そうか。それではオソノの案内でちょッと確かめてこい。居たら連れてこいよ」
 と、若い巡査に言い含め、オソノの案内で下谷のオソノの実家へ向わせた。

          ★

 三枝子の兄は頼重太郎と云
前へ 次へ
全55ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング