を誰が見たのか」
「私ども一同が水音をききました。誰も見た者はありませんが、あの皿屋敷のように」
そのときだ。実にその瞬間、由也はまるで目マイでも起したのか、フラフラフラと、身ぶるいを起して、ホッと一息して、
「そうか。皿屋敷か。そうだったか」
すくむように、うなだれてしまった。
ところがフシギなことが起った。井戸屋が井戸の中をしらべてみると、女中の死体などはないのである。なにぶん大豪雨のあとだから井戸水はおどろくほど増水して、深い井戸だが、相当水がせり上っている。とても底までくぐることができない。棒を突ッこんでみると、水の深さ四間半もあって、とても底まで潜って調べられない。棒でついて慎重に探してみたが、どうも何もないようである。上役の警官は気が強くなったのか、
「どれ」
と、自分もフンドシ一ツになり、井戸の中へ降りて水中をよくかきまわしたのちに、
「オレは房州生れだからアマの作業を見て知っているが、四五貫の石をつけると底まで一気に楽に沈んで調べることができるだろう。手の石を放せば浮くのは楽だ。四間半なら大事あるまい」
二人の井戸屋に命じて息綱を腰にまかせてイザというとき引っ
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