って、二十五になる大学生だ。苦学のために、年をくっているが、秀才でもあるし、豪胆な熱血児であり、正義を愛し、弱者貧民のために身をなげうとうと心をきめた快漢であった。
オソノの実家は代々非人頭で、車善七の血統をひく今でも乞食の頭目。しかし彼は重太郎のすすめで五年前に乞食をやめ、薬種商をひらいている。実に重太郎が乞食の世界を巡歴して彼らを正業につかせようと努力しはじめたのはわずかに十七の時である。この少年の献身的な忠言に耳をかたむけてくれたのは、オソノの父、車長九郎あるのみだ。彼は薬屋をひらいて、輩下の希望者を行商人に仕立て、同時にとかく不衛生そのものの乞食どもにクスリを与え、まず健康、それから正業につかせようと努力した。けれども三日やると止められない乞食を先祖の代からやってる連中だから、誰も乞食をやめたがらない。生れつき乞食であるのに不服がないから、その身分に恥を感じなければ乞食をやめたがらぬのは当然かも知れん。
車長九郎は輩下の者が自分を見ならってくれないのにガッカリしたが、学業をなげうって乞食のために献身しようという重太郎を今度は彼がいさめて再び学業につかせた。重太郎は学業のかた
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