きて、ゾッとして、以心伝心、蒼ざめて立ちすくんで、とても言葉には語り得ず、語らなくともピンピン分り合う二人であったが、馬丁の当吉は男のことで、
「なア、オイ。ゆうべオレが小屋へもどって、さて、寝ようというときに、ボシャーンという大きな音がしたなア。たしかに裏庭の井戸だと思うが、まさか……」
二人の女はその三分の一も聞かないうちから、もう、やめて、と手を合せて拝みたいほどの怖しさ。
午《ひる》ちかくなって、ようやく由也が起きたから、貴重な品物の破損を示して、何かお気づきのことが、ときくと、
「ウム。そうか」
由也はうなだれて何か考えこむ様子。その顔色の蒼いのは深酒の宿酔《ふつかよい》のせいか。まるで彼自身がこわしたようにジッと考えこんでいたが、
「三枝があやまって、こわした。雷鳴のせいか、よろけてその上に倒れたのだ。そして、泣いていた」
泣いていた。そこに全てがつきている。泣いていた三枝子の悲しさが彼女らの背中を水が走るようによく分る。当吉はお人好しだが、大の弱虫。三枝子が中に死んでいると知って井戸へ降りられるような男ではない。セッパつまって警察へ届けると、相当上の警官と若い巡査
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