文を書いたのも哀れなことだ。駒守は文彦を後嗣に立てる遺言状を残して、風守とともに世を去る時を待っていたのさ。彼がいかに風守をあわれんだかは、彼も同様の覆面を用いた心事によってよく察することができよう。英信はすべての秘密を知りつくした唯一の人物。やがて駒守が風守とともに別館に火をかけて焼け死ぬことも打ち開られていたのだろうよ。英信はその日に非ずと思っていたが、意外にも木々彦のコクリサマは真相を語っていたようだ。こういうフシギはよくあるものだぜ。目に一丁字もない男女が予言を行って狂わぬことがあるものだ。英信が別館へ立ち戻ったとき、駒守が火を放ちつつあるとこを見たのであろう。怖れおののいて、座敷へ引っ返したのさ。木々彦が行方不明になったのは、さしたることではなかろう。予言の的中におどろきのあまり、逆行性健忘症というものになったらしいや。よくあることだ。昔はこれを神隠しといったな。いまにヒョックリ戻ってくらアな」
 海舟はまたもや無心に悪血をとりはじめる。逆行性健忘症まで心得ているとは、驚き入った話。イヤハヤ、とても、かてません。虎之介がことごとく舌をまいて、八ヶ岳山麓の里人が駒守に対するよう
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