明治開化 安吾捕物
その九 覆面屋敷
坂口安吾
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)呪《のろい》を
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)多久|駒守《こまもり》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ピョン/\
−−
光子は一枝の言葉が頭にからみついて放れなかった。
「ちょっとでよいから、のぞかせてよ。風守さまのお部屋を」
「ダメ。お部屋どころか、別館の近くへ立寄ってもいけないのよ」
すると一枝はあざわらって、
「そうでしょうよ。牢屋ですもの。しかも……」
一度言葉をきって、益々意地わるく薄笑いしながら、
「風守さまは御病気ではないのでしょう。気が違ってらッしゃるなんてウソなんだわ。健全な風守さまを病気と称して座敷牢へとじこめたイワレは、いかに?」
一枝の目は呪《のろい》をかける妖婆のように光った。そして、云った。
「母なき子、あわれ。母ある子、幸あれ」
そして、フッと溜息をもらして、光子の傍らから離れ去ったのである。光子の頭にからみついたのは、その最後の呪文のような一句であった。
兄妹とはいえ
次へ
全56ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング