が生れると、本家へひきとられて養子となった。それが風守であった。
生れたての海の物とも山のものともつかぬ風守を後嗣に選ぶということは、風守と木々彦の能力比較には無関係のことで、つまり神人たるべき家柄だから、人界の風習に一指もふれぬ教育が必要で、したがって生れたばかりの風守が選ばれ、すでに多少、分家の子供として発育した木々彦がしりぞけられたのだ、という説がある。
しかし、村人たちには今に伝わる秘密的な一説があり、駒守は水彦を好かなかった。否、末ッ子の土彦を溺愛していた。稲守の死が土彦の分家以前であったら、なんの躊躇なく駒守は彼を後嗣に直したろうが、あいにく直前に結婚して分家したばかりであった。そこで土彦に子供の生れるのを待って養子に迎えたのだと云われている。とにかく、神格化された族長家に、一年間も、否、たった一ヶ月間でも、後嗣たるべき人物が空白だということは由々しいことだ。一族の柱たる族長家だから後嗣が空白のうちに族長に万が一のことがあったら、全体の支柱を失い、民族のホコリを失うのである。それを敢てして、土彦に長男の生れるのを一年間も待ったというのは、土彦の子供でなければ後嗣にしたく
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