ないという駒守の気持ちがよくよく強かったのだろうと村人は判断したのであった。面目を失ったのは水彦であった。
風守が生れると、いったん分家した土彦夫婦は風守とともに本家の邸内に起居することになった。風守の離乳期まで、という意味に人々は解したのである。ところが、足かけ四年の歳月がすぎ、風守の母は死んでしまった。これがまた秘密伝説の一つであるが、彼女の死は病死ではなく自害だという風説があった。
なぜなら、風守が本家の後嗣にふさわしい素質すぐれた子供ではなく、やたらにヒキツケを起すテンカンもちであったからだ。テンカンにも色々あるが、風守は人デンカンというのである。知らない人を見るとテンカンを起す。およそ族長の後嗣として、これぐらい困った素質はない。威儀をはって氏族の者どもを引見すべき族長がその時テンカンを起してはたまるまい。駒守が当然の順序をあやまり、強いて風守を選んだための天罰だという説もあるが、それは駒守を神とみる村人たちの公認を得たものではない。彼らにとっては神たる駒守が天罰をうけることを認めるよりも、神の選んだゆえにテンカンもちの風守をも神と認める方をとるのであった。しかし、天罰は
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