がなければできないことだ。
 彼には男の子が三人あった。稲守《いなもり》、水彦、土彦という三名である。守の字がつくのは本家の後嗣たるべき長男に限られ、分家すべき弟たちには彦の字がつく。これが多久家の代々の定めであった。
 長子の稲守は三十の若さで死んだ。彼には子供がなかった。そこで、弟の水彦、土彦両名の子供から一名を選んで本家の後嗣にすることになった。ところが、水彦には木々彦という男子があったが、土彦はまだ結婚したばかりで、子がなかったのである。
 水彦は次兄であるし、おまけに孫はその子の木々彦一人なのだから、文句なしに木々彦が本家の養子になりそうなものだが、駒守はそうせずに、選定を後日に残した。なにぶん駒守は怒った牛の角をつかんでジリジリ押しつけたという伝説をもつほどだから、生きながらにしてその威風はスサノオのミコトと大国主のミコトを合わせたように神格化されて、怖れかしこまれ尊ばれている。その生き神様のオメガネに易々《やすやす》とかなうことのできなかった木々彦は、そのために村人になんとなく安ッぽく見られるような貧乏クジをひくメグリアワセになってしまった。
 それから一年後、土彦に長子
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