田舎通人の極意があるね」
 と花廼屋はアゴをなで虎之介はダラシなく帯をしめ直しながら、
「すべて緩急の呼吸は剣術に似て同じもの。人情のキビも剣術の呼吸ではかれる。お若いうちは、ここが分らないものだ」
 と悦に入って高笑いした。こうして一行は八ヶ岳山麓へ到着したのであった。
 村人たちはまさにカキのように口を開かなかったが、意外なところに、そうでもない人たちがいた。それは多久家の人々であった。彼ちは怖しい圧力をうけていた駒守の死によって解放されていたし、また自ら潔白であったから、気附いたことを語るのに怖れなかった。特に光子がそうであった。
 彼女は出火直前の英信の様子が不審であったことについて、一枝に同意の証言を行うことを慎しむように心掛けた。新十郎たちの調査の主点がそこにあると思ったからである。その点こそ、出火事件の最大の秘密であると自ら信じていたせいだ。彼女はそれを隠した代償に、英信についての他のことはみんな喋った。
 新十郎は、藤ダナの下で英信が光子と交した言葉に甚しく興味を持った。それをきいた良伯が目をまるくして棒をのんだようになったのである。その会話のすべてについてではなく、一
前へ 次へ
全56ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング