ような憎みきった目附きになり易いのは、愛慾が野獣のものになりかけている証拠であった。
キンもトクも同年の二十三。息綱を持つだけが能ではなくて、今も海底へくぐって海草や貝を採る海女でもある。その肉体はハチ切れるように豊かにのびて、均斉がとれ、まるで健康そのものだ。キリョウも満更ではないから、この際益々困り物というわけだ。
この船の料理方の大和は船底のボス、深海魚のような男であった。彼は海の浮浪児だった。子供の時に密航を企てて外国船に乗りこみ、それ以来、外国商船や捕鯨船の船員として七ツの海を遍歴してきた荒くれだ。それだけに、海についての経験は確かである。特に外国航路ともなれば、船長とても彼の経験に縋らねばならぬ。外国の港で水や燃料の積込みから、腐らない安酒の買い込みまで、大和の手腕にたよらなければならないのである。
大和が料理方というポストを自ら選んで占領したのも、料理の腕があるからではなく、船内の特権を独占するためであった。彼は他の船員をアゴで使って料理に立働かせ、自分は終日酔いどれていた。そして他の船員が酒や特別の食物を所望する場合には、金銭でなければ何かの義務で相当の代償を支払
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