明治開化 安吾捕物
その六 血を見る真珠
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)強者《つわもの》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二十|尋《ひろ》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ドヤ/\と
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明治十六年一月のことである。東京の木工船会社で新造した百八十トンの機帆船昇龍丸が試運転をかねて濠洲に初航海した。日本の国名も聞きなれぬ当時のことで、非常に珍しがられて、港々に盛大なモテナシをうけた。そのとき、木曜島近海の暗礁にのりあげて船体を破損し、修理のために一ヶ月ほど木曜島にとどまったのである。
折しも木曜島では、明治十二三年に優秀な真珠貝の産地であることが発見されて、諸国から真珠貝採取船や、仲買人が雲集し、銀行も出張して、真珠景気の盛大なこと。明治十八年には日本の潜水夫もこの島へ稼ぎに出たということだが、それは後日の話。昇龍丸の乗組員は偶然その地に長逗留して、徒然なるまゝに、真珠採取事業をつぶさに見学するに至った。
船長の畑中利平は房州の産で、日本近海の小粒な真珠採取には多少の経験
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