の合った潜水船の船頭が必要だ。綱持ちの要求に応じて敏活に船をさばく両者の馴れが必要なのである。
又、二十尋の海底で作業するとなると、ポンプ押しに十五六名の屈強な若者を必要とする。これらの人数を全て揃えると、又、使い馴れた潜水船を積みこんで行くことも必要だ。ポンプ押しには船員を代用することが出来るが、船頭の竹造と、八十吉の妻キン、清松の妻トクの三名はどうしても連れで行かねばならぬ。又、竹造の潜水船も積みこんで行かねばならぬ。
こうして八十吉ら五名の男女は畑中の注意にしたがい、土佐沖へ出稼にと称して郷里をたち、昇龍丸に乗りこんだのである。昇龍丸は誰の怪しみをうけることもなく出帆した。
★
船には女は禁物という。その女を乗せるについては、畑中も甚だ不安にかられた。しかし息綱持ちが彼女らに限るとなれば、どうにも仕方のないことだ。
日数を重ねて目的の地に近づくころから、彼の不安が事実となって現れてきた。以前の航海ではこれ程のことはなかったのに、なんとなく船全体が殺気をはらんで息苦しい。船員たちが二人の女を見る時には、すでに優しさを失い、最も厭《い》まわしい物を見る
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