するに至りましたが、それは金庫を開いた当時ではなくて、後刻に至って冷静に考えてからのことでした」
 新十郎は又ニコニコと一同を見廻した。
「今我々は二ツの宝石が海底へ戻ったことを知っております。しかし今日までは今村氏以外の何人もこれを知ってはおりません。したがって、大和君の天眼通にも拘らず宝石が見つからないとすれば、それはどこかに巧妙に隠されているのだと推定せざるを得ません。しからば何人がそれを隠したか。その結論をだしうる人物は船長殺しの犯人だけです。即ち、彼が金庫をひらいた時には、金庫の中には無かったが、船長室のどこかに在った筈であります。したがって、真珠が船長室から掻き消えたのは、彼がそこに立ち去った後、そして事件が人々に発見される以前であります。そして、それに当る時間に船長室にはいった人はただ一人しかありません。今村氏ただ一人です。彼は犯人が立ち去った直後に三十分も船長室を物色しているのです。ところが犯人はその人物を今村氏とは知りませんでした。その人物が八十吉君の船室へはいった故に、八十吉君だと思っていました。その結果はどうかと云えば、日本へ戻った八十吉夫人は、その留守宅を五回も
前へ 次へ
全52ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング