か》らんでうなだれた。やがて顔をあげて、
「たしかに、そういうことがありましたが、私は前後不覚に熟睡して、はじめは全く気附かなかったのです。同衾している人が良人でないと分ったのは、手の施し様のない状態になった後でした。又、その人が今村さんだということは、今まで知らなかったのです。良人ではない赤の他人の誰かだということだけしか知りませんでした」
 尚何か附けたして言おうとするのを、新十郎はおさえて、
「それだけおききすればよろしいのです。清松君がきいた音はソラ耳ではありません。しかし、その人は八十吉君ではなくて今村さんだったのです。ところで、今村さんが質問に答えた言葉に、こういう重大な一句がありますよ。今村さんが八十吉君をデッキから突き落して自室の方へ戻ったとき彼が発見したのは、すでに殺されていた船長でした。又、すでに開かれていた金庫でした。清松君が隣室に殺人や物音をきかなかったのは無理がありません。今村君が降りてきた時、すでに船長は殺されていたのですから。今村さんは清松君の証言通り三十分程船長室に居りました。なぜなら、彼も亦真珠を探したからです。しかし、それが已に盗まれていることを知る
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