場をごまかして、言葉巧みに八十吉を誘い、デッキへ連れ去る。オレが見ていたワケじゃアないから、こうまで細かには分らないが、おおよその事情に変りはなかろう。策に窮した畑中は八十吉を海に突き落してしまったのさ。自室へ戻って残り酒をひッかけたから、にわかに疲れが出て椅子にもたれたまま寝こんだのだろう。おキンは利巧な女だから、あらましの事情を察して、畑中の熟睡を見すまし、モリを執ってただ一突きに刺し殺したのさ。日本の海女はモリの名手だよ。モリを片手に十尋の海底をくぐって魚を突くに妙を得ている。海女の手中のモリは、虎の手中の箸のように自由なものさね。おキンがわが部屋を出て船長室に忍びこんだ物音はきこえないから、畑中を殺し、金庫をひらいて真珠を奪い、再びわが部屋へ戻ったおキンを、清松の耳はデッキを降りた男の仕業ときいているのさ。今日までは、これを八十吉と心得ていたから、清松はおキンの留守宅に忍びこんで、再々真珠を探したのだ。清松には諦めきれぬ真珠と見えるよ。西洋では宝石にまつわる怪談ほど因果をきわめた物はないぜ。古来本朝にその怪談が少いのは、貧乏な国の一得さ。これがさしずめ本朝宝石怪談の元祖に当るか
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