かし昇龍丸の冒険奇譚には甚しく驚いた様子であった。くわしく話をきき終って、ナイフを逆手に暫時悪血をとっていたが、
「虎や。おキンというのは美人かえ?」
「海女には稀な、十人並をちょッと越えたキリョウ良しでございます。何せスクスクとまことに目ざましい体躯の女で」
「船長畑中、冒険心に富み、豪の者だが、心の弛みによって色慾に迷う。酒のなせる一時《いっとき》のイタズラ心だ。好漢惜しむべし。もう一歩控える心を忘れなければ、何事もなかったのだな。同席の男が揃って水夫どもの宴会室へ立ち去ったから、ムラムラと悪心を催した。おキンの私室を訪れて、これを手籠《てごめ》にしたのが運の尽きさね。八十吉はその心構え細心な潜水夫だから、ガサツな水夫どもの酔いッぷりは肌に合わなかったろう。おキンのことで何かにつけて水夫どもにからまれもしよう。長座に堪えがたかったのは当然だな。一足先に戻ってみるとおキンの部屋から畑中が出ようとするのにバッタリ出合う。平素は一点非のうちどころもない船長だから、八十吉はとッさに怪しむ心も起らなかったかも知れないが、これには畑中の方が驚いたに相違あるまい。室内へはいられては困るから、その
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