りません」
「イイヤ。お前の部屋へはいった者がたしかにいた。オレはこの耳できいていたのだ」
「部屋の間違いじゃないの?」
「そんなことはねえや。オレの部屋の隣は船長室だ。オレの真向いがお前の部屋だ。今村の部屋はお前の隣り、船長室の真向いだが、二ツの扉はちょッと離れているぜ」
「なんだか気味が悪いわね。いったい誰が私の部屋へはいってきたの。私は寝ていて知りやしないよ」
「不思議だなア。あれが今村だとしてみると、どうもオレには分らねえや」
「いったい、私の部屋へはいった人が何をしたの?」
「それがハッキリ分らねえや。その男がお前の部屋へはいると間もなくオレは眠ってしまったんだ。ただ、オレが知っているのは、その男はデッキから降りてくると船長室へはいったのだ。三十分ぐらい船長室にいて、それからお前の部屋へ行ったのだぜ」
「船長室で何をしたの?」
「それがオレには分らない。別に話声もきこえないし、シカとききとれた音もねえや。どうもな。まさか、人を殺しているとは知らねえや」
清松は何となく言葉を濁した様子であったが、キンの反問が今度は鋭かった。
「人を殺した音がきこえなかったというの? 板一枚で
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