ワレが分らないのでございます。主人が生きておればとにかく、行方知れずですもの、私の家こそ特別家探しを受けないのが当り前と申せましょう」
キンは帯の間から一通の手紙をとりだして新十郎に見せた。
手紙の差出人は大和である。新橋の某楼に於て昇龍丸の犯人探しの会を開くから出席されたい。当日の出席者は今村、五十嵐、金太、清松、竹造、トク及び自分の七名であるが、遠隔の地の人には旅費を支弁するから、万障くり合せて御参会願うという文面であった。犯人探しの当日はすでに明日に迫っていた。
「この手紙が届いたのは一週間ほど前のことですが、私は昨日まで考えたあげく、度々の家探しをされて痛くもない腹を探られるのも癪ですし、亡夫が他殺でありますなら、この際ハッキリ犯人をあげていただきたく、思いきってお願いに上ったのです。一切の秘密を申上げては他の方々に悪いようですが、この手紙で見ましても内輪だけの犯人探しなどといかにもふざけた様子ですから、いッそ埒をつけていただこうとの考えでした」
「清松さんや竹造さんは出席しますか」
「あの方々とは近頃は親しい交際もありませんので、きいて参りもしませんでした」
「足かけ四年
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