前の出来事といえば大そう捜査も困難でしょう。私のような者が出席して、皆さんの口が堅くなっては困りますから、隣室で皆さんのお話が伺えるような手筈を致しておきましょう。私たちがお話を立聞いているということが分るような態度をなさっては、いけません。たとえば、強いて話をききだして私たちにきかせようとなさるような御親切は却って無用にねがいますよ」
さっそく新十郎自身明日の会場を訪ね、主人に会って、頼むと、そこは今評判の紳士探偵の顔、隣席に部屋をとってうまいぐあいに話をきくことができるように、新十郎直々見て廻って、部屋を選定することができた。
新十郎の一行は、少し早目に会場へ行って、お客のフリをして軽く飲食している。
隣室へ次第に人が集ってきた。五十嵐、金太、清松、竹造、キンの五名が集ったが、今村と、当の言いだし平が姿を現さない。五十嵐が大きな声で、
「犯人探しをしてオレに犯人を教えてくれるとは大和にしては出来すぎた親切だが、どうも、そこが臭いじゃないか。オレに犯人を教えてくれれば、相手次第では大そうユスリの役に立つからな。どうも話がうますぎらア。もう二時間も遅れているが、大和は来ないぜ。こ
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