る》さがりのこと、神楽坂の結城新十郎を訪ねてきた女があった。八十吉の寡婦キンである。折から新十郎のもとに花廼屋《はなのや》、虎之介、お梨江の三名が居合せたのは神仏がヘタの横好きに憐れみを寄せたまうお志か。この三名は私の仕事の助手、どうぞお心置きなく、と新十郎から云われても見れば見るほど取り合せの奇妙さ、キンもウカとは打ちとけられるものではない。然しここが名探偵の偉いところ、助手にそれぞれ変化が与えてあるのだろうと思えばワケが分らぬことはないから、
「実は足かけ四年前のことから申上げないと分っていただけないのですが……」
と、昇龍丸の秘密を一切うちあけて語った。キンは言葉を改めて、
「さて、本日お願いに上りましたのは、ほかでもございません。帰郷以来、私の不在中に留守宅を家探しする者がありまして、今までに、たしか五回、同じことをやられたのでございます。奇妙に一物も盗まれておりませんが仏壇の奥から米ビツの底までひッかき廻して参ります。誰かが盗まれた真珠を探しているのかと思いまして、トクさんや竹造さんにお訊きしますと、あの方々のところでは、そういうことがないとのお話。私だけが家探しをうけるイ
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