をまとめ、雑居室へ移らざるを得なかった。
 全てそれらの事どもに馬耳東風だったのは、キンと清松であった。キンは良人が死んだために。しかし、清松はなぜだろう。まったく彼は死神が乗り移ってしまったように陰鬱であった。潜水病のためもある。しかし潜水病の原因をなした願望こそは、彼に死神の陰鬱を与えているのに相違ない。三〇〇グレーンの黒真珠も、五三〇グレーンの白銀の真珠も、失われてしまったのである。そして、船はすでに北へ北へ走っている。再び真珠を採る機会も失われてしまったのだ。
 根気を失わないのは、大和であった。彼は毎日船内を探した。人々の挙動を探っていた。しかし、発見に至らぬうちに、日本の山々が見えはじめた。しかし彼は船を去る瞬間まで希望をすてなかった。
 昇龍丸は先ず房州で清松らの一行をひそかに上陸させた。上陸前に、一行の荷物や全身を検査することを忘れなかった。それから横浜へ帰港して、畑中は航海中に病死し、ために船は目的地に至らぬうちに途中から引返したと報告した。そして彼らは怪しまれずに解散してしまったのである。

          ★

 その時から三年余の年月がすぎた。
 ある午《ひ
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