しきってしまったからだ。間もなく彼らは、同じ職人がこしらえた木像のように堅くなった。一時に同じ魂を吹きこまれたように、ムク/\とふくれて動きだした。彼らは一斉に喚きだしてしまったのである。
「そんなことは、やらせねえぞ」
「やれたら、やってみろ」
ここで大和が折れなかったら、袋叩きにも簀巻きにもされたであろう。大和も案に相違の面持で、苦笑した。
「フン。そうか。見かけ以上に鼻の下が長すぎるな。女の襟足を見ただけでヨダレの五升は垂れ流す野郎どもだ。はばかりながら、大和はアキラメのいい男だ。そうまでヨダレが流したきゃア、オレはひッこんでやるだけよ。助平どもめ」
大和はしばらく考えていたが、やがて今村を指した。
「お前は、あの部屋をでろ。そして、みんなと雑居しろ。どうも、なじめねえ野郎だ。船乗りの気持は分るが、貴様が何を考えているか、その気持だけは、てんで見当がつかねえや。貴様があの部屋にトグロをまいていちゃア、助平どもの気が荒れていけねえ」
「そうだとも。そうしろ」
何名の者かが口々に和した。それが一同の同じ気持であったのである。今村も仕方がなかった。大和にせきたてられて、即座に荷物
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