の後はかねての順番通りだぜ。オレの作法をよく見て、同じようにやるのだぜ」
と、一同の正面にまわって白布に向って坐る。盆から二尺ぐらい離れている。両手をピタリと膝につけ、首だけ突き延して仔細に盆の上を睨んだあげく、膝の前のピンセットをとって真珠を一ツつまんだ。
次がキン、清松、竹造の順だが、清松は腕が痺れているからトクが代る。一順すると、再び同じ順にくりかえして、二十順ちかく、事故なく真珠の分配を終った。
悶着は大和が船長代理として船長室へ部屋替えしようとしたことから起った。
真ッ先に反対したのは、意外にも金太であった。このウスノロのどこから出たかと思われる強情な嗄れ声で、
「そんなことは、やらせねえ」
金太の目はどういう感情のためか白目だけに見えた。南洋の太陽に日灼けした真ッ黒の額に青縄のような静脈がまがりくねって浮きたち、白い歯をむいていた。彼の首を叩き斬っても、締め殺しても、これだけの首でしかないように見えた。金太は死人の首をつけて白目をグルッと返しながら、
「断じて、やらせねえ」
と、もう一度叫んだ。しばらくの間、人々はポカンとしていた。自分の感情を金太だけが適切に出
前へ
次へ
全52ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング