船長の屍体は水葬にし部屋は綺麗に掃除させた。
「今から日本へ帰るまではオレが船長代理だ。不服のある者は言ってみろ」
 彼はこう云いながら船長室のヒキダシから持ちだしたピストルをガチャつかせた。
「異議なしときまれば、これから船内の捜査だ。どこへ隠しても、天眼通大和の眼力、必ず探しだしてみせるからな」
 今村、清松、八十吉の部屋から順次隈なく調べた。身体検査もしたが、どこからも現れてこない。ついで船員一人々々について同じように検査をしたが、徒労であった。大和はそれしきのことで落胆しなかった。一同に足止めし、数名の者を率いて船内隈なく調べたが、出てこない。大和は益々せせら笑い、
「ナニ、今日一日で捜査が終るわけじゃアねえや。日本へ戻りつくにはまだ相当の日数があると覚えておいてもらいてえな。人殺しの罪人になりたくねえと思ったら、金庫の中へ珠だけ戻してくれてもいいや。人殺しの犯人なんぞこちとらは気にかけねえやな。盗ッ人だけは勘弁ならねえ」
「怪しいのはお前じゃないか。この船内で捜査をうけていないのはお前の身体だけだ」
 とたまりかねて進みでたのは今村であった。
「フン。面白い。探してみねえ」

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