いっぱいだ。又、ねこんで、翌朝目をさますとそこは雑居の大部屋である。ソッとぬけだして、デッキを渡り、船長室の前まで来ると、そこに蒼ざめて立ちすくんでいるのはキンであった。キンは黙って船長室の内部を指した。畑中が殺されているのだ。肱掛椅子に腰かけたまま眠っているところをモリで一刺しに心臓を刺しぬかれたらしい。そのモリは椅子の背にまで刺し込んでいた。そして、金庫が開け放されていた。白黒二ツの大真珠が姿を消していたのである。
 キンはよく眠った。ふと目をさますと、もう夜が明けているのに良人の戻った形跡がないので、心配して船長室まで来てみると、畑中が殺されているのを発見したのである。
 船内隈なく探したが、キンの良人八十吉と二ツの真珠は再び現れてこなかった。

          ★

 畑中変死の報に面色を失ったのは大和であった。彼の頭に先ず閃いたことは真珠であった。さっそく彼を先頭に金庫を調べると、白黒二ツの大真珠のほかには小粒一つの異常もない。
「フン。たとえ腹の中へ呑みこんで隠しても、日本へ帰るまでには見つけだすぜ。船の外には出られないのだからな」
 大和は一同を見渡してせせら笑った。
前へ 次へ
全52ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング