ルをとりだして構えながら、
「オレも船長をつとめて久しいが、こんなに手数をかけるのは貴様だけだぞ。場合によっては射ち殺すから、そう思え」
五十嵐もピストルには顔色を変えて、
「何も手数をかけてやしないよ。女をまわすのがイヤなら、オレたちをこッちの仲間へ入れてくれてもいいじゃないか」
「この部屋に女がいるか、よく見るがよい」
「フン。仲間にも入れたくねえのか」
今村がたまりかねて立上って、
「何も仲間に入れないわけじゃアない。女はもう寝てしまったのだ。オレたちだけがこッちにいるからお前らもひがむのだろう。オレたちがお前たちの仲間に入っておれば、お前らも後顧《こうこ》の憂《うれい》なしというわけだ。八十吉君も竹造君も彼らと一しょに飲もうじゃないか。我々だけがここにいると、彼らの妄想は益々ふくらむばかりだからな」
こう五十嵐をなだめ、八十吉と竹造をうながし、連れ立って立ち去った。
竹造は無類の酒好きだ。酔いつぶれるまで飲みたい男だ。真ッ暗なデッキを通り、雑居の大部屋で、薄暗いロウソクのちらつく影を目にしませながら飲みだしたまでは覚えているが、ふと目を覚すと真ッ暗で、あたりはイビキ声で
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