てきた豪の者、五十嵐が大力の乱暴者でもビクともするような者ではない。
「女をまわせとは何事だ。かりそめにもこの畑中がお預りした客人、お前らの手の届くものではないぞ。この船中に女などは居ないと思うがよい」
 しかし五十嵐は尚も執念深くキンにすり寄ろうとするから、畑中もたまりかねて襟首をとって突きとばす。武道に達しているから、五十嵐は一たまりもなく廊下の外へケシ飛んで、恨めしげに起き上り、
「よくもやったな。いつまでも貴様の一人占めにさせておくものか。オレにも覚悟がある。覚えていろ」
 捨てゼリフを残して立ち去った。
「酒を飲ませると、すぐこれだから困ったものだ。しかし今夜であらかた飲みほしてしまうから、明日からはこんなこともあるまい。又来るとうるさいから、おキンさんは先にひきとってカギをかけて休みなさい」
 キンをひきとらせて、男だけで益々メートルをあげる。畑中とても男、何ヶ月もの独身生活の味気なさ、なまじ触れられぬ女などは目先に居ない方が清々と酔っ払えようというものだ。
 そこへ再びドヤ/\と跫音《あしおと》がして、五十嵐を先頭に四五名の水夫がなだれこんだ。畑中は素早くヒキダシのピスト
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