るうちは治った状態になる。これを徐々に上昇させて、くり返すうちに全治させる方法であった。
 幸い清松は軽症だった。肩から両手にかけて、又、膝の下に痺れが残った程度で、三日もたつと激しい苦痛はなくなってしまった。
 積みこんできた食糧や水の用意が心細くなっていた。しかし清松をふかさなければならないので、畑中は一同が帰国を急ぎたがるのを制していたが、五日すぎて清松の身体に肩の痺れが残っているだけ、もう水中へ降さなくとも自然に全治すると分ったので、いよいよ出帆、帰国ときめる。その晩は酒を配って長々の収穫を祝う。
「さて、明日は一同に真珠を分配するぜ。まったく木曜島あたりじゃア想像もつかないような大収穫だ。帰国の途中には広東や杭州などのシナの賑やかな港によるから、早く金に代えたい者は代えるがよい。一番不足の取り分の者でも、三万や四万円にはなるはずだ。世界一の首飾りの玉の一つになるようなのを誰でも一ツニツは手に入れるのだから豪勢だ。真珠は銘々が控えもあることだし、一ツも不足なく金庫に眠っているから、明日を楽しみに今日はゆっくり飲むがよい」
 そこでその晩は大酒盛りになった。畑中は特に八十吉夫婦と
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