たのである。はからざることが起った。黒真珠の更に倍もあるような、白銀色サンゼンたる正円形の巨大な真珠が現れたのである。実に五百三十グレーン。世界最大の真珠である。古来の伝説に於てすら語られたことのない巨大な真珠であった。
その真珠を手にうけとって眺めまわしていた清松の額から冷汗が流れ、目が赤く充血してきた。吐く息が苦しくなった。人々は呆気にとられて彼を見つめた。清松は黙々と宝石を畑中に返した。すると彼はそのままゴロリと後へ倒れた。
「アアッ!」
叫んだのはトクと八十吉とキンと竹造と同時であった。トクは走り寄った。
「潜水病だ!」
八十吉は仁王立になって、
「まだ陽もある。波も静かだ。海底へ降してふかすのだ。早く手当てすれば、早く治るのだ。潜水船を降してくれ」
清松は巨大な真珠に盲いて無理をしたのである。老貝を探すために一時も長く海底を歩こうとした。老貝を探してつい深海へも降りて行った。その無理からである。ふかす、というのは当時に於ける唯一の療法。自然にあみだした日本潜水夫の療法だが、理にかなっているのである。つまり病人をもう一度深海へ降すのだ。軽症ならば、深海へ降すと、そこにい
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