る清松の気魄が違った。彼が宝石を選ぶ順は三番目だ。同じような宝石をもう二ツ採れば一ツは自分の物になるのだ。ようし、必ず探してみせる。それは不可能なことではない筈だった。尚海底は無限の老貝を蔵しているのだ。
 彼は必死に老貝を探した。怪物中の怪物を物色して、一時も長く水中を歩きたいと念じつづけた。それから四十五日たった。二度目の四十五日。それは不思議な暗合だった。彼は白蝶貝の未だ曾て見ぬ巨大なものを見出したのである。彼はそのヒゲをきりとるのに相当の時間を費したほどであった。
「ほう、今度は白蝶貝の主だな」
 貝を一目見て畑中は軽く呟いたが、清松のただならぬ顔を見ると、ゾッとして口をつぐんだ。殺気であろうか。何か死神の陰のような陰鬱なものが、その顔から全身から沈々と立ちのぼっているように見えた。
 作業を終って昇龍丸へ帰ると、清松は畑中に頼んだ。
「済みませんが、その白蝶貝だけ、今さいて見せて呉れませんか。中が見たくて仕方がないものですから」
「そうかい。なるほど、こいつは確かに白蝶貝の主だなア。これを採っちゃア中があけてみたいのは人情だなア」
 そこで一同を甲板へ集めて、その老貝だけさい
前へ 次へ
全52ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング