通じ易いものではあるが、彼はこのように魅力の深い女の姿を日本に於て見ることは有りうべからざる夢のような気がしたのだ。夢想に縁遠い彼であったが、これが竜宮であろうか、あれは妖精であろうかとふと考えて見た。しかしそれは自分の心を偽るための見せかけだった。彼は余りにも強烈な慾情を自覚したくなかったのだ。彼は五十嵐や大和にも増して、色情に飢えた狼であった。
 潜水夫たちは上ってきた。二人の女が船へ上ると、男たちはそれをとりまいて、まるでふるえているように見えた。するとフラフラととびだしてきた一人の男が、まるで酔ッ払いがモミ手でもするかのように身をかがめたと思うと、キンの尻を拝むように押えていた。しかし彼はその手に力をこめることができなかったばかりでなく、押えたハズミに全身の力がぬけたのか、ガックリ膝まずいて、うなだれてしまった。しかし、うなだれる一瞬早く、彼の目は赤い炎をふきあげてキンの尻に食い入るばかり見つめた凄さまじさを人々は見逃さなかった。
 人々は魂をぬかれたバカのように、それを黙って見つめた。キンが身をひいて走り去ると、人々ははじめて息をついたが、誰も言葉を発する者がいなかった。キン
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