。水夫たちは舷側から竹造の潜水船を下す。下し終って竹造と八十吉と清松が乗りこむ。その時、水夫たちは驚きの余り目をまるく、息をのんで棒立ちとなった。
水夫たちを掻きわけて舷側へ進んで行くのは、キンとトクだ。袖の短いシャツのような白ジュバンに白パンツをはき、頭髪をキリリと手拭で包んでいる。今日は彼女らは綱持ちではない。良人につづいて彼女らも海底を見てくるのだ。息綱を使うには海底の状態を知っているのが要件なのだ。
彼女らは黙々と梯子を降る。それにしても、この二人の海女の肢体はスクスクと良くのびている。真ッ白な長い脚も美しいが、キリキリと腹帯をしめた細い腰を中にして、胸のふくらみ、豊かな腹部が目を打つのだ。白布に覆われているために、妖しい夢の数々を全てよみがえらせてしまうようだ。
畑中も小舟にのりこんだ。彼が山立てしておいた海面へ小舟は進んでゆくのである。四名の男女はタコメガネをかけ口中にナイフをくわえて十尋に足らぬ浅海から順次潜水をはじめる。その海底は見渡す限り花リーフの大原野であった。大きな魚が逃げもせず目を光らせているのもあれば、悠々と通りすぎて行くのもある。礁にかこまれた広い砂原
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