の水夫どもである。思いは同じ、焼けつくような情念なのだ。これをきいて悠々とせせら笑っていられるのは大和だけであった。
「よさねえか。色ガキめ。潜水夫と綱持ちは一身同体のものだ。この野郎が夫婦喧嘩を始めちゃア、こちとらの真珠がフイにならアな。慎しみをわきまえぬ色ガキったら有りゃしねえや」
 大和は五十嵐をたしなめておいて、清松に向い、
「この野郎どもの思いつめた顔附を見なよ。一様に血相変えてカタズをのんでいやがる。大事の女房を部屋から出すんじゃねえや。こいつらは女に飢えた狼だからな。男だけの船へ女房つれて乗りこむお前も大馬鹿野郎だ」
 酔いどれても大和は落附きを失わなかった。そのお蔭で波瀾もなく、昇龍丸は目的の海に辿りついたのである。

          ★

 今日は作業の第一日目。まだ本作業にはかからない。裸で潜って海の底を見てくるのだ。八十吉も清松も白蝶貝を知らないのだ。南洋の岩礁の状態についても何の知識もないから、今日は海底見学というわけだ。
 陸の山々はジャングルに覆われて真ッ黒だ。やがて昇龍丸と陸地の中間に黒い岩が波に洗われつつ頭をだしている。いよいよ干潮が近づいたのである
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