暮し、だいぶお前よりは大人だから目は肥えている。あの大和は実に驚くべきインチキバクチの天才だよ。何年となく負けつづけているこの船の乗員どもが、今度こそは大和に勝てるという気持をすてることができないのは、よほどバク才のひらきが大きいからだ。今にしてやられるに極っているから、今のうちにやめなさい」
「アッハッハ。海の底が仕事場のオレたちには、水の上じゃア虎や狼とでも遊ぶ気持になりまさア」
 大胆不敵な清松はとりあわない。大和は清松の気質をのみこんだから、こ奴め良きカモ、今に鼻面をひきずりまわしてやろうとほくそ笑んで、先を急がない。大悪党の大和は時期を心得て焦らないが、ここに五十嵐という図体の大きな力持ちの水夫が、女色に飢えて、ひねもす息苦しい思いをしている。トクとキンの姿を見ると思わず抱きつきたい程の逆上的な衝動に襲われるのである。清松の太々しいバクチぶりに相好をくずすのは五十嵐であった。
「オイ。ナ。オレの真珠の儲けをそっくり賭けるから、お前は女を賭けようじゃないか」
 一日に二度も三度もこれを持ちだす。清松の方は驚きもしないが、これをきいてサッと緊張し、たちまち血相が変ってくるのは一座
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