もして先輩の行跡を見て育っているから、潜水病の恐るべきことは身にしみて知っている。先ず花柳病にかかって潜水するとテキメンにやられる。殆ど即死の大患にやられるのである。次に大酒がよろしくない。酒色を慎しむことが潜水夫の第一課だ。しかし清松は海の男の中でも音にきこえた豪胆者、酒色を慎しめばとて、持って生れた負けじ魂が縮んでしまったワケではない。それがバクチに現れるのである。
「ヤイ、清松。手前だけ女がついているからッて、男のツキアイを忘れちゃ済むまい。いちゃつくだけが能じゃねえやな」
 と大和にひやかされると、根が好きな道、腕に覚えもあるから、何を小癪なと仲間に加わる。それからこッちバクチに明け暮れている。兄貴株の八十吉と船頭の竹造が心配して、女房トクと力を合せて時々いさめてみるが、利き目がない。畑中も見かねて清松をよびよせて、
「船中生活の無聊にバクチにふける気持は分るが、あの大和はちょッと心のよからぬ奴、賭の支払いで苦しんでから悔むのはもうおそい。今のうちにやめなさい」
「なアに、あんな奴に負けやしません。たいがい勝ってるのはオレの方でさ」
「それがお前の心得ちがいだよ。私も長い船乗り
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