にやってはいかんぞ」
こう釘をさしたのは、大和が目当ての言葉であった。彼はバク才にたけ、あらゆるインチキの名人だった。碁将棋まで達者なものだ。しかも一方的な勝ち方をせずに、勝ったり負けたり巧妙にバク才を隠して、結局小さく負けて大きく勝つ。いつも最後に勝っているのは大和であるが、いかにも際どい勝負に持ちこんでおくから、腕の相違が悟られずに、今もってカモになる者が多かった。
航海も日数経て、女がいるだけ、無聊《ぶりょう》に苦しむと始末にこまる。大和が誘いの水をむけて、
「ナニ、真珠を賭けなきゃいゝじゃないか。いつものように給料でやりゃアいいんだ。それなら船長も文句があるめえ」
こう言われると、ほかに気晴らしのない船中生活、誘惑に勝てないのである。いつしか大ッピラにやるようになり、畑中の耳にも届いたが、イエ給料でやってるんです、と云われると、たって止めることもできない。しかし、実際の勝負はいつか給料をハミだして、彼らのメモをみれば、船員の普通の収入では賄いきれぬ多額の貸借になっていた。
ところが、ここに困ったことには、潜水夫の清松が生来のバクチ好きである。幼少から潜水を仕事とも遊びと
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