まごう方なく殺人の場所である。意外。まち子は天王会の本殿にあらず、わが家の庭園中に於て殺害せられたのである。
そのとき、目をさまして顔も洗わずとびだしてきたらしく、寝みだれ髪にナイトガウンを羽織った男が荒々しく現れた。まち子の良人《おっと》月田全作である。牛津《オクスフォード》大学卒業の新知識。親の遺産をついで活溌にうごきだした少壮実業家、金融界の逸材だ。
彼は自分の進路に立つ者があれば、これを突き倒してシャニムニ真ッすぐ突きすすむような荒々しさで警官たちの方へ進んできたが、
「警官の責任者は誰れか」
彼は横柄に一同を見廻した。妖しく光るような怖しい目の色である。事件は発見されて間もない時で、漸く土屋という警部がかけつけて指揮をとっていた。土屋はすすみでて、
「まだ警視庁から誰も見えておりません。やむなく自分が指揮をとっております。自分は土屋警部であります」
「妻の死体は?」
「検視をうけるまで現場にそのままに致してあります。庭の木戸をでた路上ですが、御案内いたしましょう」
土屋はハラワタが凍るような気持がした。夫人の死に様もむごたらしいが、これをジッと見つめている良人の姿がと
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