をめとる者の家に凶事をもたらすと伝えられている。その伝えの如くに姉妹は絶世の美女で、姉は婚家の産を破り、妹は殺害せらるるに至った。
 十一月十一日は赤裂地神を祭る天王会の祭日で、本殿は一日ごった返していた。月田家の車夫竹蔵は本殿の門の脇に車をよせてまち子の帰りを待っていたが、いつか本殿の物音はしずまり夜は更けて人の気配もなくなったのに、まち子の姿が現れない。たまりかねて本殿の玄関番にきいてみると、もうとッくにお帰りだぜ、という返事。それでは多くの人の往来にまぎれて主人の姿に気がつかなかったのかと慌てて主家へ戻った。女中にきいてみると、さア、お帰りのようではないが、という話。そのときはもう午前二時であった。
 翌朝、月田家の庭木戸の外の路上に、ノド笛をくいきられ、帯をといて着物をはがれ腹をさかれて肝臓をとられたまち子の死体がころがっていた。ところが、その場にはあまり血が流れていなかった。よそで殺して運ばれてきたことが一目瞭然であるから、血痕を伝って行くと、月田家の広い庭園のひっそりと林につつまれたアズマヤが血の海で、そのあちこちにまち子の下駄や帯や臓器の一部が四散しているのが発見された。
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