ても人間とは思われなかったからである。怖しい目は食いこむように妻の死体を見つめている。やさしい感情のうごきなどは、どこにもない。身動きもせず見つめること一分あまり、クルリとふりむいて、土屋をアゴで指しまねいて、庭内へとって返した。
「妻を殺した者は判っている。カケコミ教の悪者どもだ。妻は数日前から、告白していたのだ。カケコミ教の隠し神にノドを食いきられ腹をさかれ肝臓をとられて死ぬだろうと。妻が邪教に命じられた献金をオレがズッと拒むようになったからだ。だが、何かと策を弄して献金していたようだ。セッパつまれば、奴めはオレを殺してでも、月田家の全財産を献金するツモリでいたのさ。奴めが殺されて、月田家は無事安泰というものさ。だが、オレが殺したのではない。ハッハッハ」
 全作は大木が風にゆれるように身をゆすり異様に底深い笑声をたてた。
「カケコミ教の全員をひッ捕えて、邪教をつぶしてしまうがいいぜ。だが、悪だくみの奴らだなア。まるでオレを下手人と見せかけるように、この邸内へひきいれて殺すとは、狡智きわまる細工ではないか。オレの云うことはそれだけだ。あとはお前らの働きだが、これだけ教えてやったのだか
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